過ぎた月のこと、その一
8月のこと
8月はほとんど人と合わず、ソファに寝そべってベランダで揺れている洗濯物を眺めてばかりいた。
天気のいい日に洗濯物を干すのは非常にいい気分になる。
私の大好きな、一番影響を受けたと言っても過言ではない小説にガルシア・マルケスの『百年の孤独』が挙げられるのだが、その登場人物の中にレメディオスという美しい娘が出てくる。
彼女は他の女達と一緒に乾いたシーツを畳んでいる途中であまりにも気分が良くなり、そのまま舞い上がるシーツに包まれて空へと姿を消してしまう。初めて百年の孤独を読んだときにはそのシーンが本当に好きで何度も何度もそんなふうに自分も消えていけたらと想像をした。
今年の8月はそのシーンをまた何回も思い出した。眠っていた記憶がふとした瞬間に呼び起こされるというのは読んだものが自分の血肉になっている感覚がして嬉しいものだ。
というわけでほとんど外に出ず家にばかりいた のだが、この月はまとまった夏休みを取らずにちょこまかと月曜や金曜を休みにし、原則週休3日で働いていた。
しかしながら仕事の営業成績は非常によく、目 標数値の達成は一番のりで達成率も一番、その月のトップ営業となったので、私にとっては休養こそが全力を出せる栄養素であるらしいということがわかった素晴らしい月だった。
このときは感染症の患者数がかなり多かったので人と会うのを避けていたが、一度だけ友達と出かけた。
私は実家が藤沢市の辻堂なのだが、以前その友達を辻堂の実家へと連れて行き色々と町の様子を見せて回ったところいたく気に入った様子でその後辻堂に引っ越してしまった。
その辻堂に越した友人と江ノ島のアイランドスパへ行った。ここは少し入場料金が高いものの、小学生未満は利用ができず落ち着いた雰囲気があり、かつ平日に行ったので実にのんびりしていた。
友人とはプールにずっと浮かんでとりとめのない話をしたり、強い日差し受けながら入道雲を眺めたりして夏を実感した。
帰りには小田急の江ノ島駅の前にあるクアアイナでハンバーガーを食べて日が暮れる前に帰宅。最近はお昼前後に集合して夕飯前に解散することが多い。夜は自分の時間を確保できるのが好きだ。
あとは彼氏と一緒に線香を買いに上野の香源へ行った。
午前中に家を出て西日暮里から散歩し、ランチを香源の近くのイタリアンで食べる。
近かったのでたまたま入ったお店だったがとても好みの味で、こぢんまりと居心地が良い店だった。また線香ついでに寄りたい。
香源では紅茶、フランキンセンス、薪のような香りのするお線香を購入。かなり空いていたので「この香料ってこの匂いなんだ~」と一つ一つ確認できた。私はフランキンセンスの香りがすごく好き。
帰りは上野まで再び散歩。気を許した人間との散歩は本当に楽しい。公園でティーカップをみつけぐるぐる回して遊んだり、豪邸を見て「あれは立派ハウスですねえ」「わたくしはあちらの立派ハウスが好きですねえ」「あのマンションはきれいですがベランダが狭いので嫌」など無責任に感想を言ったりした。
上野にたどり着いてからはみはしであんみつを食べて帰宅。
みはしのトイレにはでっかく「みはし」という垂れ幕が外からかかっており、ウケたので記念写真を撮った。
9月のこと
8月中旬以降友人と会わず、かつ週休3日でもないのでみるみる元気を失っていった月だった。
とはいえなんとか元気を出そうととらやの羊羹の大・中・小を突然3本買って食べた。
昔は夜の梅以外認めない過激派だったのだが、久しぶりに食べたら黒糖や紅茶がかなり美味しく感じられ新鮮だった。
あとは一人でゆっくり外食することによって癒やしを得ようとしていた。
池袋のフォーティン東京に行ってパクチーをトッピングしたおおよそ草原のようなフォーを食べた。元気がなかったので写真はありません。
渋谷でキューバサンドを食べたのだが、この店も良かった。
テラス席からアムウェイのビカビカなビルが見える。儲かっとるな~。
ここはいい店だったのだがテラスが喫煙所にもなっているのでご飯を食べている間に人が来てタバコを吸っていくので嫌な人は多いだろう。私はかつて喫煙していた人間ですので大丈夫でした。
このあと渋谷のCIBONEに寄ってきれいな線香立てを買う。
良い……。私はこの分厚いガラス特有の薄い緑や水色がすごく好きで、小学生の時学校にあった窓のフチ?なんかフレーム?みたいなところを一生懸命に覗き込んでいた。友達に「ここがきれいだから覗いてみて……」と見せてみるもみんなよくわからんという反応だった。
ハンバーガー屋さん兼スケート練習場にも行った。
元気がなかったのでトイレの写真しかありません。
女暴ってなんて読むんだろうか。
にしてもいいところだった。ハンバーガーがめちゃくちゃうまく、バンズは浅野屋、ポテトは細くてカリカリで全パーツが丁寧な感じ。
スケボーパークってどこもかしこも混んでるかローカルの人間がいて怖い印象があるんだけど、ここは家族連れと気のいいお兄さんお姉さんが多い様子で通いやすそうだった。また行こう。
それでもやっぱり元気が出なくてソファに寝そべって結局外を見ていることが多かった。9月になってくると西日が多く入るようになって夕方の部屋が美しかったのを覚えている。美しいものっていつまで覚えていられるんだろうか。オレンジ色の夕日を、分厚いガラスの色味を、入道雲と空のコントラストを。